あの時の経験がこんなふうにつながるとは。
皆さま、店主の茶野です。
今日はちょっと長いお話。
皆さまは、Connecting the dots という考え方をご存知でしょうか?
Connecting the dots は、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式のスピーチの中に言及したことで有名です。
そのスピーチは素晴らしい内容で、何度も何度も見たことがあります。
昨日も見直して、気持ちが奮い立ちました。
Connecting the dots とは直訳すると 「点と点をつなげる」 です。
過去の経験が、その当時は思いもよらなかったことに活かせる状況を指します。
皆さまも、 「あの時の経験がこんなふうにつながるとは」 と思ったことが、今まであると思います。
ちょっと長くなりますが、なぜ前の仕事を辞めてベーグル店を始めたのかを書きます。
前職時代は航空会社で客室乗務員をしていました。
入社していたのは、ANAという会社です。
当時のANAは国際線では新人でJALには及びもしませんでした。
だからこそ、おもしろいことができるし、チャレンジができると思ってANAにしました。
入社した数年は、ANAの国際線は技量不足で、いつもお客さまから「JALはこうなのに。。。」と比較されてきました。
その頃は社員みんなが「いつかJALに追いつき、JALを追い越す」という目標に向かって、本当に一生懸命でした。
ここまでやるのかーというくらい、目の前の一人一人のお客さまを大切にしてきました。
勤務開始時間の数時間前から会社に入り、フライト後勤務オフの後も、ずっとずっと永遠に反省会をするくらいの熱い会社でした。
勤務は終了しているのに、改善提案のレポートを書くことが常でした。
勤務終了の時間に帰ったことなんて、一日たりともなかったです。
でも、やりがいはあって、いつかANAの国際線サービスを世界最高レベルにしたいと思っていました。
NYから14時間かけてフライトして帰ってきて、眠くてふらふらでも、勤務カウントされないのに、ずっとレポートを書いている職場でした。
数年後、共同運航して海外のエアラインに出向した時、フライトが終わったら仕事も終わり!帰る!報告書なんてなし!というオンオフのはっきりしている働き方に海外のクルーは違うねと思いました。
年月とともに少しづつANAの努力が報われて、評判が良くなってきました。
そのあたりからでしょうか。
マニュアルが増えてきて、仕事が言葉に置き換えられてきました。
大きくなってきた会社の中で、求められる期待値をクリアしながら自分を生かすということができずに、だからといって会社の方針に心から賛同できずにいた部分もあり、なんだかだんだん自分のやりたいことって何だろう。。。と思い始めていました。
仕事中はお客さまや同僚を喜ばすことに全力をかけていましたが、帰宅するとそのまま着替もできずに床でふて寝してしまうほど気持ち的にはいっぱいいっぱいになってきました。
なんとか会社の中でやりがいを感じたいと思い、個人として勉強して取得したシニアソムリエやホテルレストランのサービス資格。
当時は、私が初めてのシニアソムリエ取得者でした。
社報や新聞で紹介してもらったり、機内サービスワインの選定やサービスの冊子などを作っていましたが、会社の業績が悪くなると専門性を極めていく感じがなくなり、自分のやりたいことがさらにできなくなってきました。
そんな中、自分の手作りするパンや焼き菓子を持参すると喜んでもらえることが嬉しくて、組織の中の一員ではなくて、顔の見える誰かとダイレクトに「ありがとう」と喜んでもらえる関係を築きたいと思っている自分に気づきました。
気づいてしまうと、もう自分をごまかせなくなってしまったんです。
退職したいと家族に相談した時、主人にも両親にも反対されました。
もう少し頑張ったらと言われました。
安定していて、社会的な評価もある会社なんだから、辞めるのはもったいないと。
もったいないのはわかっていました。
でも、退職しました。
退職翌日から日本パン技術研究所に入所しました。
卒業翌日には、憧れだったパン屋に履歴書を持っておしかけました。
修行先のパン屋では挫折の連続でした。
退路を断って退職してまで目指している道だったのに、うまくいかなくできないことが多すぎて、こんなはずではなかったと思ったこともたくさんあります。
そんな自分が恥ずかしくて、前職時代の同僚とは音信不通になっていた時期もあります。
今回もまた何にもなれないのか、と自分に嫌気がさしていた2年間弱。
この時は、つらかったです。
でも、自分のお店を持とうと思い、今に至っています。
お店はベーグル屋にすると決めていました。
なぜって、NYで食べたベーグルが大好きだったからです。
食パンやデニッシュも作れましたが、あれやこれやするのではなくて、ベーグルの専門店にしようと決めていました。
前職でNYに行っていた時、いろいろなところに行って、いろいろなものを食べて、いろいろな時間を過ごしました。
NYで食べるベーグルの大きさ、食感が大好きすぎて、毎回スーツケースいっぱいにベーグルを詰めて帰国していました。
今月は「旅するベーグル&焼き菓子NY」をやっていますが、これもNYに行っていたからこそやりたいと思いました。
ウィーンに滞在していた時には、今は亡き中村哲医師に診察していただき、病気をみてもらいました。
その時の強烈な印象をXmasケーキにして命名した「ドナウ」。
バレンタインのチョコレートケーキに、貴腐ワインを使ったのはソムリエ時代に収集したワインがあったから。
そして、実際お店を始めて思ったこと。
ANAでの全てが今のお店に生きていることです。
目の前のお客さま一人一人を大切にする商売の基本姿勢を学べたこと。
お客さまと関係を築けるようにお名前を覚えて、お好きなものを覚えて、いつ来てくれたかを覚えて。
一円でも大切にする姿勢。
毎日やるべきことをどんなに遅くなってもやること。
スタッフが足りなくても、最高のパフォーマンスを出そうとすること。
シニアソムリエを取って、食材とワインの組み合わせを追求していたことが、今のサンドやベーグル作りに役に立っていること。
フライト先で毎日エッセイを書いていたことが、毎日のブログを書くことに役立っていること。
どんなに今の仕事が大変でも、やりたいことができなかった時代を思い返せばちいさなことと思えること。
ベーグルカンパニーのお客さまが”connecting the dots”というスティーブ・ジョブズの考え方が好きだとおっしゃってくれましたが、私も同感です。
”you can’t connect dots looking forward. You can only connect them looking backwards”
「先を読んで点と点をつなぐことはできません。後から振り返ってつなぐことが初めてできるわけです」。
前職時代に経験したもの、感じたもの、見たもの、感動したことなどの点と点が、歳月を経て今のベーグルカンパニーにつながっている感覚を今は感じることができます。
そう思うとき、人生に無駄なこと、つらいことなんて一つもないはずと思います。
もがき苦しんだ時期もあったけれど、今はそう思えます。
今、昔の私のように何となくパッとしないと思っている方、やりたいことが形にできなくて苦しんでいる方がいたら。
夢を諦めないでほしいなと切に願います。
stay hungry
stay foolish
スティーブ・ジョブズの言葉で締めくくります。
お知らせ:
8/1から紙袋が有料となります。
プレゼント用に渡したいというお客さま用に、今までの紙袋はご用意いたしますが、有料となります。
紙袋小(ベーグル4個まで)→5円
紙袋中(ベーグル6個まで)→5円
紙袋大(ベーグル8個から10個)→10円
エコバックご持参でご来店くださいね。
ご理解をどうぞよろしくお願いいたします